「鰯の味」

僕は魚の味が大好きだ。
小学生のころ、学期毎に作成されていた学年文集にこう記した。
「僕は鰯が大好きです、毎年の誕生日はケーキではなく鰯で祝
います、今年ももちろんその予定です。」
魚は健康にも良いし、栄養も豊富だということは知っていたの
で、僕は得意気だった。

ところがいざその文集が形になり保護者に配られると、その日
の夕食時(もちろん献立は鰯)、何故か兄姉には笑われ、母親
からはお叱りを受けることに。実は今でこそ鰯は高級魚に成り
上がったが、当時は雑魚同然だったのである。恥ずかしくて近
所に合わせる顔がないというのだ。

当時、前越少年まだ10歳(すねもスベスベ)、僕は毎週水曜日
夜八時に、隣の町から講師を招いて行われているストレッチ教
室へ母親と二人で通っていた。その日もドラゴンボールを見終
えた僕達はバスタオル一枚ずつ持って公民館へ向かった。蒸し
暑い夜だった。「鰯好きなんか?良くできた子やねえ。」「啓
輔君賢い訳や。」など近所のおばさんのフォローも空を切り、
母親の終始苦笑いの表情が印象に残っている。蒸し暑い夜、ア
イスを食べながらの帰り道。重い足どり、鰯の味。


想い出はつい昨日のようだ。