「猫の集会」
今住んでいる家の路地から、20メートル程歩いて表通りに向か
うと、交差点にでる。その交差点の角には眼鏡屋があり、駐車場
が隣接されている。夜になると、この駐車場にはどこからであろ
うか、一匹二匹と猫が集まってきては、隣の閑古鳥が鳴く眼鏡屋
を尻目に、やいのやいの、やり始める。そう、ここでは夜毎、猫
の集会が開かれているのだ。晩御飯の献立やら鼠の居所に関して
の情報交換でもしているのであろう。
その中に僕がひいきにしているのが一匹いる。口の周りに黒いブ
チがあり、それが髭に見えるからチョビと呼んでいる。チョビは
下っ端なのか、いつも謙虚な態度で、塀の上で巨体を持て余して
いる茶トラの親分を、羨望の眼差しで見つめている。僕はそんな
控えめなチョビを応援している。
大学生の頃住んでいたアパートのベランダに、一匹の猫が居座る
ようになった。そいつもやっぱり白地に黒いブチがあり、チョビ
によく似通っていた。昼下がり畳の上でぼーっとしていると、い
つの間にかベランダ側のカーテンに黒い影が現れる。ふふふ、よ
し来たな、今日こそ打ち解けようと、カーテンをゆっくり開ける
と、いつも彼は大儀そうに欠伸をして、ノソノソとベランダから
塀づたいに目の届かない所に行ってしまう。彼がよその猫と喧嘩
をして怪我をしている時などは、チャンスだと思い、コップに水
を汲んでやったりもしたが、飲むだけ飲んではまた、向こうの物
置の方へ行ってしまう。愛想がない。まるで猫のような猫だった。
結局、僕の方が引っ越してしまったので、どうなったのかは知ら
ないけど、彼奴の事だから図々しくも他の誰かが住んでいる、あ
のベランダで陣取りしているに違いない。
そのアパートと今のマンションが割と近いので、もしかしたら駐
車場のチョビはあのベランダ猫の子どもかも知れないなどと勝手
に運命づけて楽しんでいる。こうなると、もう放ってはおけない。
「親父は愛想なしだったけど、お前はどうなんだいチョビや?」
今宵もそろそろ猫ちゃん達が集う時間だ。チョビは腹を空かして
いるんじゃなかろうか。茶トラの親分が、ご主人様から戴いてき
たツナ缶を仲間に御馳走しても、新米のチョビは遠慮して受け取
らないのではなかろうか。それならばチョビや、僕の家においで
よ。お前になら、僕の大好きな鰯を分けてやっても良いぞ。
