「想い出のサンフランシスコ(前編)」

高速道路、流れる景色の中、チキンゾンビーズを聴きながら、「ア
ベさんはバンドやらんのかなあ」って今まで何度呟いただろうか。

おとぎ話のツアー中の車内BGMで、ミッシェルはマストアイテム
だ。ミッシェルを聴きながら各々学生時代の悶々とした記憶を辿る
のである。現在、チバさん、クハラさんがバースデイ、ウエノさん
がレディオキャロラインで活躍しているのは御存知だろう。僕は高
校生の頃、同仕様のテレキャスターギターを購入する程アベさんに
憧れていたので、そこにアベさんの名前が出てこないのが、残念で
何だか寂しいなと思っていた。そんな折、アベさんが、同じ広島出
身の吉川晃司兄貴の年末コンサートでサポートギタリストを務める
という噂を耳にした。硬派なミッシェル党の人には賛否両論あると
思うが、この話を耳にしたとき、僕は本当に嬉しかった。興奮しす
ぎて、おとぎ話のライブに支障が出ないか心配である。これをきっ
かけにまたあの豪快な、拳の固まりのようなカッティングを聴ける
かと思うと、さっきから胃の奥が方が熱くなってきている。

高校一年の冬、丁度10年前、僕は金沢AZホールにミッシェルのラ
イブを見に行った。「ハイチャイナ」から始まった2時間のライブ
中、息をのんだまま一度も呼吸できなかったんじゃなかろうか?そ
れくらい衝撃的だった。アンコールの「シスコ」が終わった瞬間、
キュウちゃんがスティックを客席に投げた。スティックが空中を舞
い、落下地点にたくさんのキッズ達が群がる。花嫁のブーケトスの
ようだ。まだ放心状態だった僕は、動く気力もなく、その光景をた
だ眺める事しかできなかった。するとどうだろう、誰もスティック
をキャッチする事が出来ず、人の頭の上を伝って、どんどんこちら
の方へと近づいて来るではないか。奇跡が起ころうとしている、そ
う思った時、僕はもう既に、スティックを手の中に握りしめていた。

リムショットでボロボロになったそれを見た時、咄嗟に自分が悪い
ことをしたような気がして、誰にもバレ無いようにスティックをT
シャツの中に隠した。ボロボロのスティックに感動して、僕だけの
秘密にしたかったのだ。さらに驚くべきことに、一緒に行った連れ
が、もう一本のスティックを拾ったといって僕の方に持ってきた。
僕はこの時ドラムの神様の洗礼を受けたのかも知れない。とにかく
合計二本のお宝をゲットした僕は熱っぽく家路に着いた。

そして後日、僕は当時組んでいたバンド練習に宝物のスティックを
したり顔で持って行った。